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ミュージカル「ファントム~もうひとつのオペラ座の怪人~」感想

演出とは、センス。かわいいとは、ちゃぴ。
どこかで1回観れたらいいかな~と思ってギリギリでチケットとったら、予想外に刺さってしまったファントムのざっくり感想まとめ。





【公演情報】

ミュージカル「ファントム~もうひとつのオペラ座の怪人~」

原作:ガストン・ルルー
脚本:アーサー・コピット
作詞・作曲:モーリー・イェストン
演出:城田優

キャスト
ファントム(エリック):加藤和樹 / 城田優
クリスティーヌ・ダーエ:愛希れいか / 木下晴香
フィリップ・シャンドン伯爵:廣瀬友祐 / 木村達成
カルロッタ:エリアンナ
アラン・ショレ:エハラマサヒロ
ジャン・クロード:佐藤玲
ルドゥ警部:神尾佑
ゲラール・キャリエール:岡田浩暉


【公演日程】

2019年11月9日(土)~12月1日(日)
東京都 TBS赤坂ACTシアター

2019年12月7日(土)~16日(月)
大阪府 梅田芸術劇場 メインホール

https://www.umegei.com/phantom2019/index.html

舞台は19世紀後半のパリ、オペラ座
楽譜売りで歌手志望のクリスティーヌ・ダーエは、その歌声をオペラ座パトロンの一人であるフィリップ・シャンドン伯爵に見初められ、オペラ座で歌のレッスンを受けられるよう取り計らってもらう。
一方、オペラ座では支配人のキャリエールが解任され、新支配人のショレが、妻でプリマドンナのカルロッタと共に迎えられた。キャリエールはショレに、オペラ座の地下に幽霊がいて、自らを“オペラ座の怪人”と呼んでいることを伝えるが、ショレは解任された事への仕返しに怖がらせるために言っているに過ぎないと取り合わなかった。


オペラ座を訪ねてきたクリスティーヌを見たカルロッタは、その若さと可愛らしさに嫉妬し、彼女を自分の衣裳係にしてしまう。ある日、クリスティーヌの清らかな歌声を聞いたファントムは、ただ一人彼に深い愛情を寄せた亡き母を思い起こし、秘かに彼女に歌のレッスンを行うようになる。ビストロで開かれたコンテストで歌声を披露したクリスティーヌは、カルロッタに「妖精の女王」のタイターニア役に抜擢される。フィリップはクリスティーヌを祝福するとともに、恋心を告白。ファントムは、そんな二人の姿を絶望的な思いで見送るのだった。


初日の楽屋、カルロッタの罠にかかったクリスティーヌは毒酒により喉を潰されてしまう。客席からは野次が飛び、舞台は騒然となる。ファントムは失意のクリスティーヌを自分の住処であるオペラ座の地下へ連れて行く。しかしそれが、やがて彼を悲劇の結末へと向かわせることになる―。











開演前から入口のもぎり、物販案内のスタッフさんも劇中のコスチュームを着てたり、舞台~客席はパリの街角になっていて、絵描きのお兄さんがいたり花屋のお姉さんがいたりパンフを売り歩いてたりと、さながらテーマパークみたいで。
私はこういう感じの開演前の雰囲気好きだし、なにより全員はけないまま(なんなら客席通路を歩いてたり客席に話しかけてる最中に)不穏なテーマ曲が鳴り響いて登場人物たちが動きを止める、という始まり方が薄っぺらくなりがちな『客席も物語の中』演出の部類の中でかなり好きなタイプだった。客席との距離感が近い演出って、大体演出家の感覚が透けて見えちゃうものなので滑るとそれはそれは寒いことになると思うんだけどw
少なくとも私はそういう感じはなくて、演出家城田優、意外と想像してたより良いのでは?と思って見始められた時点でだいぶ加点。
観劇前にちらほらツイートで見かけた通路多用しまくる演出は、やっぱりどうしても席によって見づらさ出てきちゃうだろうし、改善してほしい点ではあったけど、オリジナルでそこまで予算積めてるとは思えない中でシックな色合いにパステル使うことで明暗を表現したセット・衣装とか、後述するシルバニアシステムとか、経験値とセンスの良さでバシバシ殴られちゃったな~~~~と思った。今後も経験重ねて演出家としてもガンガン活躍してほしい。
幕間までほぼ5分に1回「ちゃぴはかわいいの天才!!!!!!!!」ってなってたのもあるけど、シリーズものとか原作あるもの除いたら何気に現状今年一番良かったかもしれないな………と思ってチケット足しました*1。この組み合わせが刺さったのでキャスト的にはかずちゃぴひろしか観てません。



ストーリー的にはほぼ改変無しなんだけど、エリックのキャラクターが限りなく人間らしいというか、誰かも言ってたけど「生まれてから今まで地下で暮らしてた青年が、太陽そのものみたいな性格の母に瓜二つの女性と出会ったらそれは拗らせるでしょ」みたいな書き方だった笑
私はあんまりファントムというかオペラ座の怪人という物語の良さを理解できてなくて、直近で見た宝塚雪組のファントムも「全部お前が悪いんだろうがキャリエール!!!!!!!!」って怒ってたタイプなんですけど。まぁそこは今回も変わらずです。


私の贔屓フィルターかかりまくってる自覚はあるけど、純真無垢で太陽みたいな陽キャ故に悪気がなく、『陰キャ』とか『鬱』という概念が存在しない世界で育った女性、というのがめちゃくちゃ上手いちゃぴがクリスティーヌを演じると、なんかもう全部が仕方ないねそうだね……みたいな気持ちで観れちゃったんですよね。
瞬間瞬間の感情に正直というか、いい意味で脳直で動いてるからエリックにお顔を見せて、大丈夫だから、って言ってた瞬間も間違いなく本気だったと思えるんですよ。拒絶したのも、シャンドンとキャリエールに話すときの本人の様子と言葉通り「パニック!!!!!!!違うの!!!!!!!びっくりしたの!!!!!!!!!あわわわわわわどうしよう戻らなきゃ!!!!!!!!謝らないと!!!!!!!!!」ってくるくる変わる表情も行動も、全部が全部その瞬間の正直な気持ちなのが伝わってくるので説得力がすごい。
オペラ座の怪人」という物語の「クリスティーヌ・ダーエ」自体は、エリックとシャンドン伯爵の両方に気を持たせるようなことしながらふらふらしてる、あんまりいい子じゃないようにも見えると思うんだけど、ちゃぴスティーヌはハイパー善性100%でできてるので……………………誰もが彼女に恋するけど、彼女のすべては愛なんですよ……………ビストロ後のシャンドン伯爵との会話だって、相手はクリスティーヌへの美術品を愛でる気持ちが明確な恋に変化した驚きと高揚を語ってるのに、あの音出てた!?すっごい苦手なの!!何点!?って全然噛み合ってない笑
「人は愛や喜びのために歌う」というエリックのセリフは作品全体における歌の行動原理でもあって、そう考えるとちゃぴスティーヌはシャンドン伯爵への愛を歌ったことはないんですよ。タイターニアが無事に幕を下ろしていたら公私ともに~となったかもしれないけど、一幕ラストの時点では超ギリギリで『自分の夢を一緒に追ってくれるパートナー』なんだろうなぁと思う。
クリスティーヌ自身の行動原理はカルロッタとの会話に出てくる「恩知らずにはなりたくないもの」と同じで、相手がくれる『好き』という感情に同じだけの『好き』をお返しします!みたいな。それもまったく悪気がないんだけど、無邪気という言葉では収まりきらないほどの善性で殴ってくるちゃぴスティーヌ。エリックの精一杯の気持ちである赤い薔薇一輪を拾い上げて、首傾げながらシャンドン伯爵からもらったピンクの花束が活けられた花瓶に突っ込むちゃぴスティーヌ。眩しすぎて目が潰れる。太陽。


そんなちゃぴスティーヌとの組み合わせがあまりにもドストライクで刺さってしまったのが廣瀬シャンドン。ちゃぴひろ。ちゃぴの宝塚退団公演であったエリザベートで、「体格が良く包容力に溢れた相手役と手を取り合ってガンガン踊ってガンガン舞うちゃぴ」つまりたまちゃぴ*2がすっごい好きなんだな……と自覚した私にとってはもう完全に需要を満たしまくってました。
個人的に、廣瀬くんが東宝方面で起用され始めて以降(前事務所所属時)これだ!!!!!!!って感じの配役がなくて、だったらリンカネ*3に返してってずーっと思ってたので、今回のシャンドン伯爵は本気で最高すぎました。こういうのをやってる姿が見たかったんですよ…………いやこんなの惚れないわけがない………………………なんで廣瀬友祐はトートにならないんだ………????????
フランツでも全然オッケーなのでとにかくデカい役をいっぱいやってほしいし、今回限りと言わず何度でもちゃぴと恋してほしい。その姿に恋してる。
ビストロ~ララランドの辺りが一番印象的というか、定点しがいがあったのでそこメインで話しますね。ビストロでクリスティーヌが小さな声で歌い始めた時点で、あの喧騒の中でまっすぐに彼女の声を拾い上げてうっとりと目を閉じてひたっていた廣瀬シャンドンが、それ以降のソロに完全に心奪われて微動だにせず彼女を注視し、劇団員たちの歓声で夢じゃない!現実だ!ってなる一連の様が美しいんだ。絵画。
その後の、劇団員の誰があの歌に混ざって誰が混ざらないかも全部全部廣瀬シャンドンが促したり引き止めたりしてるんですよ。ビストロのシーンは全員モノトーンの衣装を着ているんだけど、その中に黄色×黒のエリックチョイス立海カラードレスを着たクリスティーヌがいるのはスポットライトなんだろうなぁと思います。エリック・シャンドン伯爵の鏡合わせ対比演出が多いので、ここはエリックに限らずシャンドン伯爵にとってもそうなんだと思う。
曲終わりの拍手、客席よりも廣瀬シャンドンの方が拍手入るの早かったんですよ。どの観客よりも真っ先にクリスティーヌの歌を讃える高揚感が、すべての音が止まったあの瞬間に響き渡るのがめちゃくちゃ気持ちよかった。
タイターニア開演前に楽屋でクリスティーヌとシャンドン伯爵がキスを交わすと、そのままセットの乗った盆が回って、地下へ続く鏡の後ろでエリックがそれを見ているという鬼畜生演出があるんですけど。キスの後におでここつん、ってするんですよ廣瀬シャンドン。なんだあれは!!!!!!!!!!勝てない!!!!!!!!!!!!!!って100万回くらい思った。演出家、いい男をいい男として描きながら人の心を砕くのが上手すぎるぞ。


廣瀬シャンドンに絶対勝てない和樹エリック。文系陰キャ(仮)のエリック。ツイッターでは延々ちゃぴひろの話ばっかりしてたんだけど、そもそもこの人の歌とか芝居に粗があったら文句しか出てこなかったと思うので、普通にめちゃくちゃ良かった。割と久しぶりに歌ってお芝居して、ってところを見たんですけど、個人的に甘めの歌声が好きじゃないので和樹エリックで見られてよかったなぁって。後述しますが、悲劇を背負うのが似合いすぎてるからミュージカル界隈で和樹が死にまくるのは仕方ないと思いました。
冒頭の方で書いた「生まれてから今まで地下で暮らしてた青年」という一人の人間である彼を描こうとした演出家城田優の意図を、嫁が受け取るとこんなに精度高いのか……っていう別方面の末恐ろしさも若干感じたw
間違いなく和樹エリックを見てるはずなのに、見てもいない城田エリックを感じる瞬間がすごいあって、細かい差異こそあれ城田エリックはこういう感じなんだろうな~というのが想像できるというか。演出家と役者のシンクロ度が高いとこういうことが起こるんだなぁという物珍しいものを見た気持ちがまず先行しちゃった笑
今回のファントムがフォーカスしてるテーマは『鏡合わせの恋(シャンドン伯爵)と愛(エリック)』なのかなあ、というのがぼんやりとした印象なんだけど、それは和樹エリックの孤独でいる姿があまりに似合いすぎてたからかもしれない。住む世界が違うという現実は悲しいことだけど、世界初の三重奏が披露されるシーンで舞台上に立っているエリックをセンターに、セット上を地上に見立てて上手と下手にクリスティーヌ・シャンドン伯爵がいる構図は、あまりに切なくて美しかった。あとクリスティーヌに拒絶された後のアヴェ・マリアね。子エリックの号泣に合わせて鳴ってた回想後に、子どもの癇癪のような悲しみを爆発させる現在のエリックに向けて鳴らすんじゃないよ鬼演出家!w
エリック・シャンドン伯爵が対比構造にあるのに対して、各々とクリスティーヌの構図は共通して『夢の象徴』だったのが印象的だったかな。クリスティーヌの夢は言うまでもなくオペラ座で歌うこと』で、そこから生まれるエリックへの感情はどこまでも歌の先生への親愛しかなくて。一方で、エリックの夢は『母』『芸術』『オペラ座の歌手(≒人前に立つ)』『外の世界』みたいな色んな要素を彼女という光に見出していたからこそ、あんなに重くて大きな感情になったんじゃないかなぁ。レッスンを申し出る時に、自分も名が知れた歌手だって話したのはなにも彼女に怪しまれないようにするための嘘だけではなく、願望も含まれてたのかなと。
大体全部キャリエールのせいだろうが!!!が私のファントム総括なんだけど、それでも父子デュエットはグッとくるものがあったなぁ。あれがあることで一つ、エリックにとっては求めてたものが手に入ったのだろうし、だからこそクリスティーヌの懇願を聞き入れてシャンドン伯爵を殺さずに済むんだと思う。



赤坂ACTって縦に長い箱だからどうしても階段系セット作らないと場転とか複雑な作品って作りづらくて、私はそれがあんまり好きじゃないんだよなぁ………と思ってたんだけど、今回それ使いつつ採用されてたのがシルバニアシステムだったんですよ。(勝手に命名)
支配人の部屋・カルロッタの部屋・クリスティーヌの楽屋がそれぞれ正方形の箱の中に作られてて、それを出したり仕舞ったり回転させたりすることで場転やオペラ座の地上と地下を表現するという。2回目に観劇した日はこのセットの収納が上手くいかなくて、話の流れ的にも一旦緞帳降ろすか?みたいな感じになってたので寸法には検討の余地ありそうだけどw
背景がオペラ座の舞台裏みたいになってる中で箱が変わるだけで場転になるのがとにかく面白かった〜〜〜演出家自身が色んな作品出てたり観たりしてるおかげで、そういう面白いギミック色々見られたのも加点ポイントでした。
あと3年くらいステアラが延命してたら演出公演やってほしいな〜とステアラの亡霊は思った次第。スパルタかよって言われたけど。今回の観劇に際してあまり積極的じゃなかった理由の一つに『城田演出ってどうなの?』という不安があったんですけど、こんなにいいもの見せてもらえるなら今後は積極的に見たい理由になるな〜と思いました。最後にちゃぴかわいいポイントだけ書き残して終わり。



【ちゃぴスティーヌのここがかわいい】
・衣装部のちゃぴスティーヌと和樹エリックのやりとり、「見ないで!」「はい!><」「僕も歌手で…」「えっ!!!!」「見ないで!!!!!!!」って感じでわちゃわちゃ可愛い。赤ちゃんだからびっくりするとすぐ体が動いちゃうちゃぴ。怒られると目をぎゅっと瞑るちゃぴ。
・「おつかれさまですっ!」があまりにかわいい声した体育会系すぎてこれは恋
・ベストオブかわいいはハンガーラック押しながらトコトコトコ、って袖から走ってくるところです。めっちゃかわいい。そのままカーブするのもずーっとトコトコしてる。100万点満点。
・ララランドで上手へ残ってたシャンパン、下手へグラスを投げる廣瀬シャンドンに、ちゃぴクリスティーヌが一々あわわ!あわわ!ってなってて超かわいかった
・ちゃぴスティーヌちゃん、めちゃくちゃ至近距離でエリックとキャリエールが口論してても起きない。赤ちゃん……




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*1:過去にちゃぴかわいい!となった観劇後、勢いで5万のバッグ買ったこともある

*2:珠城りょう×愛希れいかの元月組トップコンビ

*3:西田大輔脚本演出。夏侯惇というめちゃくちゃシリーズの要役をやってる。悪い男はいい男。