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『怪談・にせ皿屋敷』DVD鑑賞まとめ

お芝居の評価って難しいなぁと思う。というのはその脚本家/演出家にいい印象持ってない人間には良かったところは役者のおかげ、悪かったところは脚本演出のせい、って感想になりがちなところがあるなあって。私は岡村演出が自分の感覚とは合わないからつまんないと思ってて、かつ太一さんは自ら演出とかができる人なのを知ってるのでこれって太一さん発の演出なのでは?と思ったりもしてしまう。

どこまでが役者発でどこまでが演出家発でどこまでが脚本なのか、なんてことは実際の台本やお稽古見てないと分からないわけで、もちろん見えてるものを評価するのが観客なんだけどその辺りの正解が分からないまま良かった悪かった言うのってなかなか不毛だなと思ったり。私がこの作品で面白いと感じた部分はもしかしたら私の好きじゃない岡村さんの演出が一役買ってるところもあるかもしれないじゃない。分かんないけどね。


というわけでそんなこと考えつつ好き勝手に怪談・にせ皿屋敷の感想まとめ。




朱雀FINALの川北見た時も思ったけど、私は太一さんのお芝居が凄く好きだしこの人は立っているだけで華のある役者さんだなぁと思ってて、たしかににせ皿は脚本がすごくよかったんだけど、じゃあ台詞がとても印象深いのか?というとそんなこと全然ないんだ。私もあまり記憶力いい方ではないけど、それでも見た直後とはいえ「げんまん」くらいしか頭に残ってるワードがない。それでもいい脚本/話だったと思えるのは、そこに感情を乗せて役に命を吹き込む役者の力だと思う。太一さんは決して印象的ではない、なんてことない台詞一つにも命を吹き込んで板の上で生きてる人だなぁって改めて感じた。

でも、じゃあそういう脚本を広げるお芝居をする人がたくさん揃えばいい舞台になるかといえばまったくそうではなくて、広げられたお芝居を収める人/締める人がいないと成り立たないと思う。作中ほとんど太一さんと同じシーンにいるばーちょんや銀之丞さんは収める/締めるお芝居が出来て、しかもそれがめちゃくちゃ上手くて、なおかつ自分の味が出せる人たちなんだなぁ。

一方同じようにシーンに出てるしょおんはその辺りの収める/締めるがあんまり上手じゃないんだけど、しょおんがお芝居を広げると太一さんがパッと収める/締める側に回るから舞台上のバランスは取れるんだよね。太一さんの味を出す、って意味では彦兵衛は創さんよりしょおんの方が向いてたなって感じた。ラストシーンの創さんの映え方がすごくいいっていうのもあるけど。特典に入ってたしょおん版も「お菊の……祟りが…」って台詞が完全に取り憑かれてる感じあってすごくゾクゾクしたけど、やっぱりWキャストは先に見た方がしっくり来るようになるなぁ。

キャスト的には朱雀界隈オールスターズに近いメンバーで、ばーちょんやちゃんじんといったお芝居上手い人たちもいて文句のつけどころがないんだけど、実際にDVD見て特にいいなと思ったのはヒロインが山本美月ちゃんってとこかなと。正直お芝居はそんなに上手くないんだけど、早乙女太一の相手役として必要なものを全部持ち合わせてて、しかもそれを完璧に使えてるなって印象でした。

広げも収めも出来る太一さんがお菊とのシーンはお芝居広げまくってく中で、そこに添えられた小道具の一つのように居られる美月ちゃんの効果はすごく大きい。お芝居の邪魔にはならない、でもたとえ姿が見えなくても声には存在感とキャラ立ちがある、和装が似合うんだけど一目見て美人と分かる目鼻立ちをしてる。半端にお芝居広げて舞台上のバランスを崩したりしない、添え役として満点に近い。これうまく表現できてない自覚あるんですけど全力で褒めてます。

だからこそラストシーンのBGMが惜しいなぁって。それまで音楽は場面転換の合図とか背景のように、とにかくお芝居の邪魔にならない仕様だったのに、なんでここでコーラス入りの曲がくるんだよせめて音量もうちょっと下げようよっていう。個人的にはここは添えのお芝居一貫だった美月ちゃんの泣きの横顔と綺麗な指先の所作という収め/締めの動きが、周囲の喧騒と合わさって物語としては広げになるという彼女随一の見せ場だと思ってて、それだけで十分完成してるのにここクライマックスですよー!!!って分かりやすく主張してくるBGMめっちゃ下世話で野暮だなって思った。

私個人としては特に好きな顔じゃないんだけど、目鼻立ちがくっきりした洋風の顏してるのに、黒い太眉とその骨格が泣きの男顔だから普通にしてても泣いてるように見えるとこがお菊にぴったりなんだよなぁ美月ちゃん。嬉しいって言ってるシーンも表情というか声の雰囲気が明るいだけで顔泣いてる。それがお菊という役にはすごく合ってるし、女顔の太一さんと並んだときもすごくバランスがいい。これだけ早乙女太一の相手役のお菊としての素養を兼ね備えてて、なおかつそれをちゃんと使えてるのは本当に凄いと思う。

脚本的にラストが凄く好きっていうのはもちろんあるんだけど、一番いいなって思ったのは早乙女太一の圧倒的殺陣によって話が展開して『いかない』ところがいいなって。もちろんそれは見世物として一級品のクオリティだからこそとても説得力のあることなんだけど、そうなると青山播磨は早乙女太一ありきになってしまうよなって。もちろん殺陣自体を披露するシーンはあるんだけど、それが物語で起きる問題の完全な打開策にはならないとこがすごくいい。

とはいえお馴染みオールスターズなだけに中の人透かして観ることは避けられないわけで。そういう意味で朱雀ファン的には播磨が敵わない相手役、あそこが僚くんであることはわりかし説得力あったんじゃないかなと思った。ばーちょんも同じく。あれはなんというかこう、絵に描いたような知力が体力を上回る的なやつですよ。

そんな感じでばーちょんの芝居と舞台上でのバランス取りの上手さにはただただ感服…!!だったんだけど、個人的にはちゃんじんをもう少し上手く使えなかったのかなぁ惜しいなぁって思う気持ちが強い。いい役だったし、腹違いといえど兄弟って説得力がありすぎるほどいいキレだったのに。にせ皿自体は播磨の物語だからあんなもんなのかなぁ。

鉄のあの感じはとにかくとても良いちゃんじんだったんだけど、あれって鉄がなろうとした男像=播磨様だったってことなんだよね。傍若無人な強さのある、人の上に立つ男の理想像が腹違いの弟。ロマンだなぁ。

あと鉄の刀から火花出るアレ………いや確かにびっくりはしたけど、でもそれ必要な演出だった?そんなの無くてもちゃんじんの芝居で十分すぎるほど劇的なシーンに出来たんじゃないの?って思ってしまって、とにかくせっかくちゃんじん使ってるのに勿体無いなぁって思った。

でもラストのばーちょんと僚くんが捌けるやつはなにこれすごいーーーーー!!!!って思ったし、それは青山劇場の作りもその利用の仕方も話の流れにぴったりだったからで、あれが岡村さん演出ならちょっと見直すわレベルに感動したんだけど、まぁ、真相は観客には分からないので。あれ良かったですとだけ。


青山播磨があまりにも私の中での『劇団朱雀二代目早乙女太一』像にぴったりすぎてこ、これが見たかったんです……とさえ思ったけど、もちろん役が入ると化ける人だということは知ってるのでどんなに本人が透けて見えてもお芝居だとは思ってますよ全身じゃんけん以外。あの目の輝かせ方すごかったですね。じゃなくて。相手がいる役といえばレチタも見たことあるけど、やっぱり愛情の描き方が美しい人だなあと思った。

ちょっと若干脱線するんですけど、播磨様ご乱心というかお菊の真相知った後の播磨様が、中の黒襦袢が見えるくらい襟元乱して出てくるのがすごくすごくオレカタ早の三四郎さんが時座で二の腕見えるほど着崩してお酒呷ってたあれを彷彿とさせて一人でぎゃっ!ってなってました。

話し戻します。太一さんといえば殺陣、女形って言われるのは尤もなんだけど、私は役者としてお芝居をしている太一さんが凄く好きで、こうしてそれらの要素を極力排斥してお芝居だけを観られる機会があるってとても幸せでありがたいことだと思ったけど、まぁ求めるものが合わない人は合わないだろうなぁとも思ったし、ファンの皆さんが播磨様注意!って出すのも納得ではありました。

でも私は播磨様だいすきです。播磨様は口をがっぱー!っと開いて笑うしドスきいた声で吠えるところがとてもよいのだ……太一さんの大きなおくちと歯並びとても好き………あと常々顔がかっこいいと思ってきたんですが、この人を形容するのにイケメンとかかっこいいとかじゃなく『色男』って最適解だなって思いました。これ自体は作品上の言い回しなんだけど、早乙女太一の男としてのビジュアル評価にぴったり。

でも、でも、たとえそんな色男の客席降りがあると言われても絶対最前入りたくないって思う舞台はそうそうないなと思いました!wお芝居としてだから大丈夫だとは思うし、座席の隙間狙ってるのは分かるんだけど、早乙女太一の速度で刀振り下ろされるって!!!椅子に座って物語を俯瞰で見つめている観客という安心感ゼロだよ!!!!初日に座った人、いつまた同じことが起きるか気が気じゃなかったのでは……?

あと舞台上にあげられてたのは仕込みじゃなく本当の観客だと思ってて……いいんだよね…?あれ追いかけ回す播磨様恐ろしすぎるし、あのお姉さんはもしかしたら太一さんファンではなくてその怖さを知らなかったかもしれないし、逆にファンだから嬉しかったとかもあるかもしれないのだけど、少なくとも私なら本気で生命の危機を感じますあれは。こわい。

カッパの舞はね、もうね、播磨様楽しそうだからなんでもいいよ…wwwって思ったけど、あれ多分朱雀ファンの皆さんの方が本編と切り離して観られるんじゃないかなと思いました。無茶振りされるメンツを見慣れてる的な意味で。あのエンディングの後に毎回カッパの舞されたら他のファン的には余韻返せwwwwwwってなりそうですけど。私は播磨様が無茶苦茶してるのが好きなので、それで終わってくれたことで笑顔になれました!

ばーちょんとか銀之丞さんとかちゃんじんとか、とにかく皆さんすごい良かったんだけど、早乙女太一という役者は主演である以上に華であるから結局あの人に全部持ってかれちゃうんだよな〜でもにせ皿は脚本も演出も周りのお芝居も早乙女太一のためにあるわけじゃなくて、各々がその仕事を全うした結果としてあの人が際立っているのがいいんだ〜

そういう意味ではキャスティングの時点で7〜8割完成してると思わせるくらい各々が役に合ってるし、仕事を全うしてるからこそ、太一さんのお芝居の広げが多少度を超えても平気なんだよなぁきっと。元々自分で広げたものを面白く収められる器用な人だという印象はあったけど、今回は投げれば誰かが拾ってくれる。幸せな座組だなぁ。

とにもかくにも日替わりゲスト含め、オールスターズの様相だったようなので太一さんの殺陣/女形が観たい人とか太一さん以外の役者ファンの人の満足度はもしかしたら低いのかもしれないけど、バランス感覚のいい役者さん揃いなおかげで場面一つとっても、作品トータルでも、とても緩急のあるいい作品だったなぁと思います。DVD完売してるの残念だなー。

あと、見終わってから脚本が東京サンダンスの人だって知って良かった。私の中で最早トラウマ級に面白くなかったし一つも心動かなかった東京サンダンス。もしそれを知ってたら最初の脚本/演出の話の通り、絶対にバイアスかけて見てしまっただろうし、あんなに気持ち良く終われなかったのでは?とさえ思う。ので、やっぱり個人的には舞台って事前に情報入れない方が没入できていいなぁ。