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いのうえ歌舞伎「神州無頼街」感想

無頼街跡地で天魔王が生まれて関東広野になりました!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!おたくは泣きすぎて死亡です!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!





【公演情報】

2022年劇団☆新感線42周年興行・春公演 いのうえ歌舞伎「神州無頼街」

作:中島かずき
演出:いのうえひでのり

出演
福士蒼汰
松雪泰子
高嶋政宏
粟根まこと
木村了
清水葉月
宮野真守

右近健一
河野まさと
逆木圭一郎
村木よし子
インディ高橋
山本カナコ
礒野慎吾
吉田メタル
中谷さとみ
保坂エマ
村木仁
川原正嗣
武田浩二

藤家剛
島弘之
工藤孝裕
菊地雄人
あきつ来野良
藤田修平
北川裕貴
下島一成
鈴木智
山崎翔太
米花剛史
渡部又吁
小板奈央美
後藤祐香
鈴木奈苗
森加織


【公演日程】

2022年3月17日(木)~29日(火)
大阪府 オリックス劇場

2022年4月9日(土)~12日(火)
静岡県 富士市文化会館ロゼシアター 大ホール

2022年4月26日(火)~5月28日(土)
東京都 東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)

http://www.vi-shinkansen.co.jp/shinshuburaigai/

時は幕末、ところは駿河国の清水湊。 清水湊にその人在りと噂された侠客・ 清水次郎長の快気祝いのため、ある料亭に甲州駿河の名だたる博徒の親分衆が集まっていた。

続々訪れる親分方を調子よく迎える男がいた。他人の事情に勝手に口を出しては銭にする“口出し屋“の 草臥(宮野真守)である。さっそく次郎長一家からも銭をせしめようと、幹部の小政の人探しを手伝うことに。次郎長が出入りで受けたひどい傷を直したという、評判の町医者・ 秋津永流(福士蒼汰)だ。次郎長復帰の立役者を宴席に誘うため、探しにいく草臥と大政、小政。

座敷では次郎長の快気を祝い、親分衆が膳を囲んでいた。そこへ、今売り出し中の侠客・ 身堂蛇蝎(髙嶋政宏)が現れる。妻・ 麗波(松雪泰子)、息子・ 凶介(木村了)、娘・ 揚羽(清水葉月)を引き連れ、己の顔見せのために次郎長の宴席へと乗り込んだのだ。無作法な挨拶にいきり立つ親分衆だったが、突然もがき苦しみはじめた。首に痛みを感じた次郎長が掴んだのはなんと 蠍。当時のこの国では見かけない毒蟲を使い、親分衆を皆殺しにし、彼らのシマを貰うとうそぶくと姿を消す。そこに駆けつける永流。瀕死の次郎長だったが、永流は持っていた毒消しでかろうじて彼の命を救う。

一方、辺りを調べに走った草臥は凶介に出会う。その顔は、昔なじみと瓜二つだった。だが、凶介は覚えがない。不審に思う草臥。
日の本にはいない毒蟲を使う侠客。昔なじみにそっくりの男−−−。
謎に満ちた身堂一家を探るため、永流と草臥は彼らの根城である富士の裾野の 無頼の宿を訪れる。 蛇蝎と麗波が築き上げたその街は、喧騒と猥雑と絢爛と頽廃に満ちていた。

豪胆にして無慈悲な蛇蝎が仕掛ける、人の命を金で買う大博打。その妖しき美貌と奇怪な術で人を惑わす麗波。草臥に刃を向ける凶介の正体は。揚羽と側近の 風天千之介(粟根まこと)らに秘められた過去とは。

身堂一家が巻き起こす無頼の風に巻き込まれる永流と草臥。その果てに己自身の宿命と因縁が明らかになり、やがて、日の本の命運すら揺るがす策謀と立ち向かうことになることを彼らはまだ知らない。





ステアラの髑髏城が、超ワカドクロの捨之介たちが、とんでもない名作をかずきに書かせた。それが神州無頼街。

ふーちゃんとマモそれぞれに当て書きされたキャラクター・ストーリーとしてめちゃくちゃ良かったこともそうだし、シレラギ・蛮幽鬼といった闇の中島かずき作品の系譜を持った新感線最新作としてもめちゃくちゃ良かった。新感線作品を初めて見る、という人に胸を張っておすすめできるし、逆にこれが面白くなかったら新感線作品合わないと思うと一発で判断できる新感線要素全部盛り作品。
なんていうか、脚本家も人間だから歳を取ったり周囲の環境が変わったりすると書くものも変わってくるものだと思うんですよ。実際、近年の作品は私の好みじゃないな~って思う脚本家もいるし。だからこそ神州がこんなに歴代の新感線作品で「好きだな」って思った要素の出てくる作品だと思わなくて、かずきってすごい~~~~~
しかもそれが過剰な自己オマージュとか焼き直しとかじゃなく、上手いこと要素を拾って新たなシーンや物語が生まれてるところが更にすごいなと。たとえば神州がああいう終わり方になったことによって、シレラギの終わり方はシレンとラギだからこそ到達した結末だよな、って改めて思える。新しい選択が、過去の選択を否定する形にならない。
観客は我儘だから、好きなものにはずっと変わってほしくないけど新しいものが見たいって思っちゃうじゃん。そういう気持ちに応える作品を生み出せる才能が中島かずきにはある。すごい。

あと、これは脚本の凄さというより松雪泰子の凄さだと思うんだけど、麗波のラストは芝居の匙加減によっては『劣化した身体で生かされたことへの恨み、息子への情』故の行動とも受け取れたと思うんですよね。でも松雪泰子が演じる麗波にはそう受け取れるものが排除されていて、情と言ったら永流が失った『家族』への慕情を抱えている気配が僅かにあるだけで、蛇蝎と麗波は最期までただお互いだけを見て死んでいく。
コロナ禍以後、エンタメそのものの在り方が揺るがされたことや世相の雰囲気を鑑みて『明るく楽しいものを』という傾向があったのは新感線も同様だと個人的には思っていて、ここで麗波が『最後はいい親』にならなかったことに私は一番喜びを覚えたかもしれない。



そして当て書きされたふーまもには本当に『満月』という表現がまさしくだったし、最早それしか言いたくない気持ちさえある!www
ふーちゃんもマモも各々新感線以外でかずきと仕事をした経験があるにも関わらず、神州で当て書きされた役は月髑髏無しには考えられないものだった。おたくたちがこね回してた捨之介を、かずきも感じてくれてた。それが本当に嬉しくて、OPからEDにかけてまんまる満月がぴかぴか太陽になっていく光景なんかもうなんぼ見てもええですからね!!!!となった笑


公演が進めば進むほど殺意バシバシの時は一幕でさえもにっこにこだった永流くん。大阪~静岡~東京で上手になったはずの武器アタッチメント替えさえ、大千穐楽の力加減がめちゃくちゃになったせいでわたわたしていた永流くん。同じく大千穐楽で「置き去りにされた」を「置き去りにした」に台詞変えちゃうくらい父親への感情が大爆発していた永流くん。あまりにもおれたちが愛した福士蒼汰すぎた。愛。

特に好きだった変化ポイントは息絶えた麗波の方へ這いつくばったまま近付いていくところで、たぶん回によってニュアンスが違ったと思うんだけど、すべてが最高だった大千穐楽は間違いなく『父親』への慕情があった。狼蘭の血に、父の教えに囚われている自覚がありながら、10年前から抱え続けていた孤独にもう一度正面から対峙させられていたようにも見えた。
元々、あのラストまでの間に永流は揚羽に対して明確に父の呪縛と家族への郷愁を抱えた自分を重ねていたし、永流も草臥も『自分の在るべき場所』をずっと求めていて、特に永流の場合はその渇望が顕著に現れてた。だからこそ、ずっと抱えていた孤独が溢れ出して、でもどこにも行けなくて、急速に煮詰まっていくようなあの姿が本っ当に好き。大好き。
しかも永流も草卧も意識してないけど、2人が求めていた居場所は結果的に蛇蝎が唱えた「赤の他人同士が本当の家族になれる」という形で手に入るので、永流くんはこの10年をなかったことにも出来ないんだよなぁ。いいなぁ。


マモはやっぱりコミカルを担うことが多くて、もちろんそれはめちゃくちゃ良いことではあるけど、マモの良さは笑いだけじゃないんだよな~という気持ちもずっとあって。なので二幕の凶介とのエピソードで、おどけた仕草が強がりというか処世術としての仮面の一端である、という描かれ方をしていたのがすっごい嬉しかった。下弦で見せてくれた持ち味、かずきはちゃんと見ててくれてたんだよなぁ。

草卧は自分1人で問題に向き合って乗り越えられる人で、凶介を斬った後も泣きながら口出し屋であること、人のためになりたいという自分の気持ちを貫ける人なんだよね。永流より弱いと明言されてるにも関わらず、絶対的に強くて優しい人。
何度も弱さを指摘されて、実際その弱い部分をあんなに曝け出しているにも関わらず感じられる強さ、マモが演じるからこそだなぁってしみじみしちゃう。他人のために強くなれる男だからこそ、自分のためにだけ自分の弱さと向き合える凶介と対峙することになるし、結局その生き方を変えたわけではないので、あれは明確に生き方のスタンスバトルなんだよなぁ。負ける日もあれば勝つ日もあるので正解はなくて、まさに曖昧にしといたほうがいいことなんだよね。

草卧は永流の父でも兄でもないけど、2人の関係性はふーまもの関係性がとても色濃く反映されていて、だからこそマモじゃなかったら草卧のニュアンスはかなり違っただろうなって思う。
永流の心には常に『手を引いてくれる家族』を求める気持ちがあって、それはもちろん彼がそういう家族しか知らないからなんだけど、その意味での『手』も神州ではテーマになってて。人の手であり医者であり子供を育てていく手だって言ってくれる草卧が、永流の友達であり、欲しかった家族にもなるのはマモが演じてるからに他ならない、と思ったりする。



千穐楽特化エピソードでいうと、vsうるだかの時の永流くんはもう完全に笑ってたし、蛇蝎がラストに飛び掛かろうとした時もそれまで自分の掌を見て苦しんでたのに獲物も持たない状態でも構えて笑ってたんだよ。そんな自分に気付いてまた苦悩するし、情緒がめちゃくちゃ永流くん。
崩れ落ちていく無頼街を振り返って耐えきれず膝をついて叫んだことも、場転後に出てきた顔が『狼蘭の末裔』でも『永流先生』でもない険しい顔をしていたことも、あそこで一度すべてを失ったただの男になってしまったことを表してた。彼はお梅一家に赦されたことにも全然納得してなくて、揚羽が飛び込んできて赦さないって言ってくれたことでようやく僅かに溜飲が下がるくらい自罰的である。
そんな男に対して「俺は口出し屋、お前は」って鞄を差し出して、その鞄が受け取られるまで黙って待ってた草卧は凄かったよ。「俺は、」って永流が口にした時に、もしかしてこの後のセリフ自分で言う!?って思うほど、永流の意思を待っていてくれた。
実際のところ、言葉にしなくても草卧には永流の選択がちゃんと伝わって「医者だ」って言葉を継いでくれることが2人で歩いていく理由をまざまざと表してた。ほんとにすごかったよ大千穐楽


とかエモな気持ちになっていたら突然始まったエアせんべい撒きでの大虐殺。
本編では割と音が聴き取りやすかったブリリア2階席正面も、立つと途端にめちゃくちゃ音が悪くなっちゃって、イントロで『天魔王誕生』だって気付かなかったんですよね私。あんなに聞いてたのに。
なので歌が始まった瞬間、手拍子止めて大号泣してしまった。しかも配信されてる閣下verじゃなく、ちゃんと本編で使われてた教祖ver。マモとふちゃは「人の欲を~」あたりからうろ覚えで踊っていたが、われわれの情緒はそれどころではない。

死ぬほど情緒揺さぶられ号泣しながら、『でもこの曲でワー!っと盛り上がれる機会はもうここしかねぇ!』と思ってめちゃめちゃノりまくって、終わった~~~~楽しかったよお~~~~と思ってたら


福士「浮世の義理も!」
宮野「昔の縁も!」
福士「三途の河に!」
「「捨之介!!!」」



ふーちゃんが、福士蒼汰が、おれたちの捨の顔をしていたんだよ。



もうべしょべしょすぎておれたちはだめです。何年経ってもふーちゃんに勝てる気がしない。
突然生まれて消えたネオ関東荒野に乾杯!!!!!!


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