愛より重くて恋より軽い

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「改竄・熱海殺人事件~モンテカルロ・イリュージョン~」の記憶のかけら

寝かし続けてる間に紀伊國屋ホールが改装に入り、こけら落とし後にモンテが戻ってくる世界線に迷い込んでしまった。はずだった。今は遠い2020年3月の脱法現場こと改竄熱海くんの熱量の欠片が、どうにか残せていますように、という祈りを込めて。





【公演情報】
「つかこうへい演劇祭 ―没後10年に祈る― 第二弾『改竄・熱海殺人事件モンテカルロ・イリュージョン」

作:つかこうへい
演出:中屋敷法仁

キャスト
木村伝兵衛 部長刑事:多和田任益
水野朋子 婦人警官:兒玉遥
速水健作 刑事:菊池修司
容疑者 大山金太郎:鳥越裕貴


【公演日程】
2020年3月12日(木)~30日(月)
東京都 紀伊國屋ホール

2020年4月4日(土)・5日(日)
大阪府 COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール

2020年4月11日(土)・12日(日)
福岡県 イムズホール
※3月28日(土)・29日(日)、大阪公演、福岡公演は中止

『改竄・熱海殺人事件』オフィシャルホームページ | 2021年6月公演


熱海で殺された女子砲丸投げ選手・山口アイ子の事件を、元オリンピック棒高跳び日本代表選手だった木村伝兵衛部長刑事が捜査する。同時に木村は以前、モンテカルロで自分の愛人を亡くした自動車事故の真相について速水健作刑事から追求されていく。
二つの事件が交錯しながら進展していく捜査が進むうちにアイ子のコーチ、立花五郎も遺体で発見される。木村はアイ子殺害の容疑者・大山金太郎を追い詰めながら、自らも速水刑事から追い詰められていく。
棒高跳び三千年の歴史を塗り替えたエリート選手木村と、補欠の苦しみを舐めつくした大山。失意のまま生涯を終えたアイ子。スポーツの栄光の陰に隠れたエリート選手と補欠選手との絶望や苦悩が、謎解きと同時進行で明らかにされていく。



多くの公演が止まっていく中、私個人としては実は結構ギリギリまで観劇していた2020年3月。それでも偽義経の東京公演が止まり、ブタキンが止まり、NORAが中止になり、と予定していた観劇スケジュールがばたばたと死んでいった中、久々の劇場!!!客席!!!緞帳!!!スポットライト!!!!!!!!!!という演劇シャブを全身で浴びると人間はアドレナリンでおかしくなる。なった。
そもそも初見のモンテ自体が多和田任益へのあてがきを疑うレベルで歌い踊るというのに、客席が狂ったように手拍子と拍手を巻き起こしている狂気の光景がシャブとかじゃなく、リアルに恐怖を感じる部類のものだった。それくらい、初日の客席は役者と同じかそれ以上に狂気を孕んでいた。はるっぴさんが水野に起用されていることによる今回の客層(手拍子などへの親和性が高い)が起因なのか、そういう客席のノリも合わせてモンテの姿というべきなのか、恐怖を感じてる自分がおかしいのか。結局最後までその答えはまったく分からなくて、そこそこ慣れてるはずの紀伊國屋の熱海なのにもうすべてが未知だった。我々は日々エンタメというシャブを吸ってこんな風になっていたのだろうか。当時も分からなかったし、今でも分からない。
でも一つだけ分かることがあって、その光景に身を投じていると「今、めっちゃ、生きてる」って感じがするんですよ………………………

初日時点でもともとのモンテを概要レベルでしか知らなかったので、どこからどこまでがやしきさんの『改竄』なのか明確には把握できてなかったんだけど、通常熱海と比べてやしきさんと相性いいんだろうなっていうのはめちゃくちゃよく分かったし、それが多和田伝兵衛という選択肢あってこそなのもめちゃくちゃ分かった。分かったんだけど、なにせこっちが観劇シャブ切れ状態で浴びちゃったので客席の状況もあいまって未だに目が回ってる感じがする。
そこそこ回数観たことで把握したやしきさんによる改竄というのが、元々一人称で語られていた話を各役にバラして会話劇として組み立て直す、という方法取ってることなんだけど、それだけで作品の勢いとか感情はそのままに、話の分かりやすさが飛躍的に向上してたの凄かった。柿のつか作品っぽいところとそうじゃないところがまさしくそういう部分だからこそ、改竄モンテはあんなにやしきさんの存在を感じたんだと思う。

あとやっぱりBGMの使い方かな。私は個人的にLADY GAGA好きなので、水野と部長のラストに「Perfect Illusion」流してくるやしきさんは完全におれたちの愛するやしきさんだなって感じがして、あそこだけでチケット代ペイできたなって思っちゃった。柿の演出とか見てる限り、やしきさんがあのタイミングでドラマチックに爆音流してくるのは『盛り上げてから落とす』ために意図的に山場を設定してる感じがある、って頭では分かっていてもめちゃくちゃ鳥肌立っちゃって、ほんと意地が悪いというか陰湿というか………wwwww
劇中歌唱曲はほぼあべちゃんモンテそのままだけど、それ以外+ガガはアニメみたいな音の使い方してるなぁって感じた。BGMでシーンの緩急つけてるから飽きないまま、やしきさんの思うがままにジェットコースター乗ってる感。最終的に「やしきさんがモンテ好きなのめっちゃ分かるし、モンテはやしきさんのためにある熱海」くらいの主語になっちゃう。

作品として最高の温度感と疾走感があった、という事実を大前提として、やっぱり初日の客席と板の上のあの感じは皆「今日が最後になるかもしれない」みたいな気持ちがどこかにあったんだろうなと思わずにはいられなかった。戦時中かよ、って揶揄したいけど非常事態で非日常という意味ではそう大差ないのかもしれないし、実際あの時期はこれを書いてる2021年8月と同じかそれ以上に「公演が開催される」ということにネガティブな空気が強かったと思う。今日あそこで笑ってた人が明日には居ないかもしれない(南の島)みたいな感覚、今でもあるし実際に2021年のモンテはなくなってしまったから。



いや、しかしそれにしたって生命力のある役者が揃いまくってたんだよなモンテ。というわけで個人の話をします。

たわちゃん…………………すっごい良かった………………初日時点でまだまだギアあげる余地があるのが明白で、それでもめちゃくちゃ「この熱海」の部長だなって感じられて、すっごい好きになっちゃった………………
HKTの頃の印象が強かったはるっぴさんは痩せてもかわいいなあと思ったんだけど、そんなはるっぴさんの隣に並んでも不足なくかわいいたわちゃん部長はすごい。たわちゃん部長(マーメイドドレスのすがた)は3センチくらいのヒール履いてたけど、体感としては+10センチくらいデカくて楽しくなってしまった。そんなたわちゃんから繰り出されるかもめが飛んだ日、あらゆる意味で最強すぎて顔を覆って笑ってしまった。つらい。朱雀復活公演組の我々だけが狙い撃ちされた。
モンテ部長の狂気にはどうしても多和田という役者の狂気が透けて見えるから、観客としても普通に恐怖を感じるんだけど、その狂気は脚本演出家のやしきさんに感じる狂気にとても似ているので、結果的に改竄モンテこっっっっっっっっっっわ!!!!!!!!となる。言動っていうより情緒が滅茶苦茶でこわい。



事前PVの印象以上に声が通らないはるっぴさんに最初はハラハラしてたんだけど(最後まで特に改善されることはなかったw)ずーみんもそうだったけどアイちゃんの振り切れっぷりがすごくて。でもモンテは改竄に限らず、『部長は速水のことを胸に13階段を登るけど、あの捜査室に部長を呼び戻すのは水野の声』っていうのがオープニングの示すところなんだよな、って回を重ねるごとに再確認するし、女の愛と執念はやっぱ凄い………という気持ちになる。日に日に水野パートの時点で狂気エンジン全開になっていくはるっぴさんは間違いなくモンテの水野だし、多和田伝兵衛の女で最高だった。

はるっぴのアイドル歴ゆえのアイ子の良さはもちろん初日からあって、あれはもう芝居の技量とは別のところに起因してるものだと思ったけど、水野が日に日に良くなったのもあの身体に水野をも宿したんだなっていう感じがめちゃめちゃしたんだ。
カレン聴いてるとき、自席に戻って頭抱える水野は何を考えてるんだろう。浜辺シーンラストの舞い落ちてくるコンフェッティが左のこめかみあたりに1枚張り付いたままの回があったんだけど、あのシーンを「はるっぴの水野がそのまま消えちゃうかと思った」って言ってた人の感想を思い出して、私はカレンの時に確かに今この瞬間ここにいる水野を強く感じたんだよなぁ。

「私ね、女の夢を断つ男の人を絶対に許すことができないんです」
実質千穐楽になった3/26の仕上がり凄かったんだよね。そんなことを些事だと思わせるレベルでギア全開の先陣切ってるのがはるっぴなことも、水野パートが明らかに変わってたこともマジですごかった。もちろん皆良かったんだけど、でもやっぱりはるっぴの目がさぁ~~~~~~~~~~アクセル踏み込んだ瞬間から狂気のエンジンで突っ走っててさ~~~~~~~~~~鳥ちゃんの手綱ももうはるっぴを押さえるものじゃなかったんだよ………その手綱から感じる波動をさらに力に変えてたよ………
花のサンフランシスコから思いっきりアクセル踏み込んできたはるっぴ水野が、「お側にいられて幸せでした」って溢れ出す気持ちを飲み込みながら伝える姿で終えることをしみじみ噛み締めてしまって。「好きって言ってください」「褒めてください」の感情に類するはずだった「デザイアが聞きたいであります!」さえも部長に寄り添う言葉になってた。はるっぴさんが表現する水野の愛の変遷はすごい。

水野の「恋」が部長自身の「恋」と同じだと理解しているからこそ、正しくあろうと生きている人間がその「恋」で一線を踏み越えてしまうことを経験しているからこそ、部長は水野を自分という存在から送り出そうとするけど、水野が一線で踏ん張りながら「恋」と死ぬ人間だと知ったからこそ、オープニングの孤独な部長の耳に届いたのは水野の声だったんだよなぁと思った。「恋」って相互関係のない感情だけど、だからこそ2人は同じ「恋」を共有できたし、それは想いが通じ合ってないからこそ成立した部長と水野の唯一の関係性なんだよなぁ。
『愛』という『幻想』を抱いて愛する人間を手にかけた、踏ん張ることができなかった、という点においては正選手の部長も補欠選手の大山も違いはない。そんな2人だからこそ、青春を返せだの何故来なかっただの言い合ってるけど、‬「正義たれ、青少年の規範たれ」を全うしてる水野だけがそういうことを口にしないから水野の『愛』だけが『幻想』ではないのかな、と思ったんだよね。最初は。
でも実際速水(弟)を東京に呼んで部長の退路絶って、結婚してくれないなら一緒に死んでやる、って腹決めて実際その通り死んで、首吊った直後の部長の意識に自分を刻みつけることが『愛』か?って考えたらそれは「今、義理と人情は女がやっております」であり「女、恋に狂わば歴史を覆す」なんじゃないかなと思ったり……………するわけで……………やしきさんがやるから余計に……wwwwww



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ここまで書いて力尽きたので、あとは散文的になってしまう。

しゅーじくんと鳥ちゃん、速水が津軽海峡ぶんどって下手へ歩いてくとこで鳥ちゃんの出した足に見事引っかかってた記憶がまずあるw
「ちゃんとやれ!!!!!」って(引っかけた張本人に)叱咤されてがんばって続けたら、「おう、よく頑張った。じゃあ俺が今から自白してやるから」って(引っかけた張本人に)労われてるの最高だったな……w
全然どうでもいいことばっかり出てきちゃうんだけど、たわちゃんもしゅーじくんも既製品のドレスをぶった切って布足してあるんだなって気付いたら笑いが止まらなくなっちゃって!www検索かけても同型出てこないな~と思ったら元々マーメイドラインのドレスでしたね。それはそうでしょウケる。



土日の外出自粛要請が出て実質東京千穐楽公演になった日、私はキャストのツイートの雰囲気からそれを察して当日券で入ったし、客席も今日がモンテ千穐楽だよねみたいな諦めというか、それに近い雰囲気すらあったけど、板の上の仕上がりはそういう雰囲気によるものじゃない凄みがあった。それこそ初日のモンテが持っていた熱みたいなものがずっと渦巻いてて、この作品がオリンピックイヤーに公演しているにも関わらず完走できなかったことは悔しかったし悲しかったけど、あの熱を体感できてよかったって今でも思ってる。
だからこそこのブログを書き上げる2021年にオリンピックが延期開催されるというのに、復讐のアバンチュールが始まらなかったこと、たぶん一生抱え込んでしまうな…



【備忘録的お歌リスト】
お色直しは俺がやる!→DESIRE-情熱-(部長)
死ぬほど愛してやるか殺すほど憎むかどちらか→シェリー(速水・部長)
大山登場→なぜか上海(大山)
もっと大きな丸い球→ふたりの愛ランド(水野・部長)
俺がズキッといこう!→抱きしめてTONIGHT(速水)
写真館に火をつけた謎を解明→東京砂漠(部長・水野)
竜飛岬を見に青森へ行きました→津軽海峡冬景色(替え歌で速水→水野→部長)
かもめじゃ!青函連絡船じゃ!→かもめが飛んだ日(部長)
初めてかわいい人だと思いました→恋するカレン(部長)





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