愛より重くて恋より軽い

未来の私が読んで楽しいやつ

鈴木勝秀×る・ひまわり『る・ぽえ』感想

詩はリズム。その言葉の通り、頭に残った詩と残らなかった詩があまりにもはっきりしててちょっとびっくりした2020年一発目の感想ブログ。





【公演情報】

『る・ぽえ』

上演台本・演出:鈴木勝秀

出演
碓井将大
辻本祐樹
木ノ本嶺浩
林剛史
加藤啓

【公演日程】

2020年1月25日(土)~2月2日(日)
新国立劇場小劇場

http://le-himawari.co.jp/galleries/view/00132/00551

高村光太郎智恵子抄」をモチーフにした夫婦の話
萩原朔太郎「月に吠える」をメインにした多趣味な朔太郎の奇想天外な話
中原中也の人生と恋愛を通して描くダイアログ
“詩”を通して描く3人の詩人の物語。


智恵子抄

最愛であり、理解者であった妻、智恵子が
心を病み狂っていく様、智恵子の死後の
光太郎による静かな独白によって描きます。

 高村光太郎 ― 辻本祐樹
 詩を暗唱する男たち ― 碓井将大木ノ本嶺浩、林剛史、加藤啓


『月に吠える』

風変わりで多趣味、
親友たちとのばか騒ぎを通して描く
天才・朔太郎のアイデンティティ

 萩原朔太郎木ノ本嶺浩
 北原白秋碓井将大
 芥川龍之介 ― 辻本祐樹
 室生屑星 ― 林剛史
 森鴎外 ― 加藤啓


『中也と秀雄』

親友の小林に女をとられ、
若き中也の告白と死。

 中原中也碓井将大
 江藤淳木ノ本嶺浩
 富永太郎 ― 林剛史
 小林秀雄 ― 加藤啓







実は完全に朗読劇だと思ってて、まぁ構成的に近しいものがあるけどそれくらいのぼんやりとした認識しかなくて、ただただCOCOONで初めて見た碓井くんの中原中也とか絶対最高じゃん!!!!の1点だけで観に行きましたwいや、辻ちゃんもみねくんも信頼してるっていうのもあるけど、決め手は中也。

作品・詩人ともにめちゃくちゃ詳しいわけではないので、なんでこの3つなんだろう、って疑問がまず最初にあって。私はこの3作に共通する『孤独』がキーワードなのかなって思った。
妻を失って2年、未だ孤独の中にある高村光太郎、友を得てから孤独でなくなった萩原朔太郎、女と友を失い孤独になった中原中也。共通する『孤独』をお芝居として描きながら、詩歌を通して三者三様の『孤独』を想像するという、文学研究みたいな作品だった。



一応各作品の作中で詠まれた詩歌、記憶に残ってるやつだけ引っ張ってきたけど漏れあるかも。

智恵子抄辻ちゃんああいう繊細な役をやらせたら辻ちゃんほど美しい男はいないだろうって思った。妻との思い出を語る詩歌を、高村はどんな心境で綴ったのだろうか、という「智恵子の半生」「智恵子の切抜絵」をベースにしながら語る辻ちゃんの高村が、時折言葉を詰まらせる。それは寂寥感であったり、愛情であったり、様々だと思うんだけど、あの細い体から立ち上る感情を見つめながら無機質に暗唱される詩歌を聞いている時間が、3作品の中で一番静かで、一番情報量があったように思えた。
文字はどこまで行っても文字であって、その情報量には限界があるから、詩歌自体に向き合って読み取れるものは必ずしも、その作品が生まれるに至った感情まで届かないのかもしれないなぁ。改めて言葉にすると当たり前のことのようにも思えるけど、詩歌に描かれた世界を想像することと、その背景を想像することはまったく別なんだよなって再確認した気分。

あなたはだんだんきれいになる
あどけない話
風にのる智恵子
値あひがたき智恵子
レモン哀歌
荒涼たる帰宅
高村光太郎 智恵子抄



みねくんの萩原朔太郎マーーーージで闇と光の反復横跳びが金メダル。北原・室生とわちゃわちゃしてる時すっごいアッパーだし陽気で可愛いんだけど、鴎外訪問~芥川訪問のズレ方とか静かさに、詩歌のあの世界が見え隠れする。
萩原といえば「月に吠えらんねえ」っていう漫画読んでたからあれを連想しがちだったんですけど、みねくんの萩原はあのベストの下にぽっかりと開いたブラックホールを抱え込んでいて、そこからマンドリンとか花とかカメラとか出してくるんだろうなーって感じ。穴を埋めようとしていたはずなのに、いざ穴が小さくなってきたらその中に在ったなにかも小さくなってしまって、それを惜しんでいる。そういう内省の世界で生きてる。
辻ちゃんは芥川もめちゃくちゃ似合ってたんだけど、この2人が抱えてる闇って似てるようで性質が異なってて、演じてる役者もまさしくそうなので一瞬辻ちゃんvsみねくんの闇対決みたいになったのがぞくぞくした。るひまならではの対戦カード。

ありあけ
ばくてりやの世界
萩原朔太郎 月に吠える



碓井くんの中也、始まった瞬間から100万点満点!!!!!!!!!レザーパンツに吊り鐘マントとソフト帽、ついでに編み上げブーツ。かき鳴らされるギターの音と酒。中也だなぁ。
よく飲みよく叫びよく泣く中也をそういう芝居の上手い碓井くんが演じたら、それはもうあまりにも最高に中原中也だし、めちゃくちゃどうしようもない奴で愛おしいんだよ…
泰子を失ったこと自体も孤独の原因であり喪失なんだけど、碓井くんの中也が詩を書き殴ったり、その紙を円形に並べたりしながら、ふとつぶやき始める「小林」って声に喪失の正体を見た気がして。色んなところにあの長い手足を引っかけてぶら下がっていたのに、各々が各々の理由で外されてしまったが故の落下のようであって、その一つ一つの喪失の所在がはっきりしているところがまた、中也らしいなぁと思った。

汚れつちまつた悲しみに……
中原中也 山羊の歌

中原中也 在りし日の歌 亡き児文也の霊に捧ぐ





まったく同じ期間、同じ箱でやってるウエアハウスも観たかったんだけど予定合わなくて残念。舞台装置も全然違うらしいんだけど、るぽえは四方を客席が囲んでで、頭上に張り巡らされたワイヤーに、それぞれ間隔の異なる白いカラーリングがしてあるのが印象的だった。なるほど、詩はリズムだ。


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