愛より重くて恋より軽い

未来の私が読んで楽しいやつ

座席に己を縛りつけて「両国花錦闘士」を浴びた初日のこと

一席空けの客席は寂しい。
つい2週間ほど前に、100%着席エリアで観劇していた明治座だからなおさら。しかもアレがアレした公演の初日ということもあり、客席は完全に静まり返っていた。

オープニングが始まるまでは。



トンチキ神事ハッピーエンターテインメント裸祭り
これらのめくるめく感想やブログに後押しされてチケット取ってる人は、このブログは特に読まなくても大丈夫です。楽しんでるかい両国花錦闘士!!!!

そう、本当はなにも知らないまま観てほしい。原作ものだけど、かなり原作に忠実な話だと聞いてるけど、とにかくなにも知らずに舞い踊る力士たちの勢いに押し流されてハッピーを感じてほしい。初日の私たちのように。
でも、物語の概要とかなにがどうトンチキ神事ハッピーエンターテインメント裸祭りなのか、具体的に教えてもらえないとあと一歩が踏み出せないよ!!!!!という人に向けて、同タイプの超理屈屋な私がちょっぴりネタバレを含みつつ筆を執るよ。





【公演情報】

「両国花錦闘士」

原作:岡野玲子小学館クリエイティブ「両国花錦闘士」)
作・演出:青木豪
主題歌:デーモン閣下
音楽:和田俊輔
振付:梅棒


キャスト
原嘉孝(ジャニーズJr.)
大鶴佐助
大原櫻子

木村了(特別出演)
入江甚儀
徳永ゆうき
岸本慎太郎(ジャニーズJr.)
根岸葵海(ジャニーズJr.)
大山真志
橘花
加藤梨里香

市川しんぺー
福田転球
伊達暁

紺野美沙子

りょう


皇希
南誉士広
梅澤裕介(梅棒)
遠藤誠(梅棒)
中村味九郎
松田拓磨
遊佐亮介
近藤廉



【公演日程】

2020年12月5日(土)~23日(水)
東京都 明治座

2021年1月5日(火)~13日(水)
大阪府 新歌舞伎座

2021年1月17日(日)~28日(木)
福岡県 博多座

両国花錦闘士(りょうごくおしゃれりきし)公式 | 舞台


歌って踊って暴れて笑って、ポップでセクシーな裸祭りへようこそ!


両国に爛漫と咲き乱れる力士たちの花舞台・国技館。その土俵の上では、宿命のライバルの取組が始まろうとしている。東はソップ(やせ)型で美形の昇龍[しょうりゅう](原 嘉孝)。西はアンコ(ぽっちゃり)型の雪乃童[ゆきのわらべ](大鶴佐助)。何もかもが正反対な二人だが、思いは同じ。「コイツにだけは負けたくない!」

熱戦を取材するのは、ワールドベースボール社の相撲雑誌の記者・橋谷淳子(大原櫻子)。野球雑誌の記者志望なのに相撲雑誌の担当になった彼女には、相撲の良さがさっぱりわからない。

稽古の合間の息抜きに、雪乃童は付き人たちとディスコへ繰り出すと、密かに想いを寄せる、部屋の一人娘・沙耶香と鉢合わせする。親方もおかみさん(紺野美沙子)も心配してますよ、と窘めるが相手にされず撃沈。

昇龍も力士と分からぬようにオールバックにスーツでディスコを訪れるが、鬢付け油の匂いはごまかせない。その甘い香りに誘われるかのように大手芸能事務所パピーズの女社長・渡部桜子(りょう)が現れる。数多の男たちを欲しいままにしてきた彼女は、出会ったことのないタイプの種族・力士の昇龍を篭絡せんとする。


勝利も美女も手に入れるかに見えた昇龍だが、次第に桜子の歪んだ愛情に翻弄され、不調の力士に惨敗を喫するなど、心に乱れが生じる。

昇龍は桜子の欲望に呑まれてしまうのか。雪乃童との勝負の行方は。
淳子の見つめる土俵には、愛と欲望が乱れ咲く。果たして、その先に見えるものは……。



開演の拍子木のリズムがそのまま軽快な楽曲に続く前奏へ変わるのかと思うと、再び静まり返った会場に「長らくお待たせいたしました。ただいまより両国花錦闘士、初日の取組を開始します」と場内アナウンスが響き渡る。

隣に知人が座っていないから、一席空いているから。そんなことが大きな理由ではないと分かるくらい、初日開演時の客席はめちゃくちゃ静かだった。
冒頭のジャブのような軽い笑いどころにも笑い声は上がらなくて、なんなら私の後ろの列に座ってたどこかの関係者くらいしか笑ってなかった。それくらい客席の、観客の緊張感は凄かった。
そんな中で始まった取組がオープニングに繋がった瞬間、煌びやかな音楽と照明が会場に溢れてほんの少し軽くなった心がオープニングだ~!と呑気に思う暇もなく、猛烈に手拍子を求められる。客席も若干なにかに憑りつかれたかのように手拍子をする。

なにがなんだか分からないままオープニングを終えてしまったが、無理もない。あまりに唐突な「花錦/おしゃれ」というワードにふさわしく眩いまわし姿が乱舞する板の上の光景に、この時点で私たちの脳は一度焼土と化したからだ。降臨したデーモン閣下が、デーモン閣下大山真志)だったとか全然判断できなかった。でもゲネ写真みたらほんとに真志だった。アレェ?



視覚情報が優先するタイプのおたくである私がデーモン閣下大山真志)にも気づかず、躍動する肉体というか老いも若きもまわし姿!みたいな気持ちも浮かばなかったのは、聴覚からくる情報量が多すぎて視覚に回す知能を失ったからだ。3場まで終わった時点でこれは手のひらが死ぬな……と悟って指輪外したんだけど、案の定その後もめちゃくちゃ手拍子しまくったし、手を叩けば叩くほど脳細胞が死んでいった気がする。
この舞台に欠かせない音楽を生み出した人こそ、2.5舞台やTRUMPシリーズをはじめ、若手俳優追ってるおたくは大体一度はお世話になってる和田俊輔さんである。



和田さんが「平成」で遊んだ曲が、とにかくポップで笑えて耳に残る曲たちが、まずもって年末明治座*1を彷彿とさせすぎる。るひま*2……おれはクレジットされていないお前の霊圧を感じるぞ……

平成というものの、物語の舞台はビジュアル等から推察できる通り1980年代バブル期なのだが、その頃のJ-POPを色濃く、それはもう色濃く踏襲している。大丈夫かこれ、ワンチャン若いおたくに通じなくないか。
元ネタが分からなくても一切問題なく面白いんだけど、とにかく前奏から笑わせてくるのでゲラは新しい曲が出てくるたびにこみ上げる笑いが止まらなくなる。どこまでも客席を笑わせようとしてくる気概が音楽にも満ちてるハッピーエンターテインメント。私は「俺 is beautiful」が好きです。大体の曲は歌詞がパンフに載ってるので、記憶と照らし合わせておうちで歌おう。主題歌である「Naked Men 見ろ、裸の俺たちを!」YoutubeSpotifyで聴けます。

youtu.be

open.spotify.com




なんとか聴覚情報を捌けるようになった頃、物語の大枠も徐々に掴めてくる。というかヴィレッヂあるあるの大体あらすじで語ってる通り、昇龍と雪乃童というライバル関係の2人の力士の成長物語である。
なので、話自体がトンチキか?と言われると全然そんなことはない。ただ、なにせ板の上に立ってる全員キャラが濃い。濃すぎる。ちょっとしたエピソードを描くだけでめちゃくちゃインパクトがあるので、1つ前になんの話してたのかが吹っ飛ぶのだ。とぅら~い。

両国花錦闘士は明治座×東宝×ヴィレッヂという歴史もカラーも異なる3社の同い年プロデューサー3人が立ち上げた「三銃士企画」の第1弾なので、どんなに見たことある面々がキャスト欄やスタッフ欄に名前を連ねていても、これは決して新感線ではない。
ではないんだけど、私を含め身内おたくの受容体はヴィレッヂ成分を検知しやすいので、あの見覚えのある顔面大写し映像の悪夢とかレーザービーム照明とか「区間急行」って書いてある小道具とか、和田さんの作曲、青木さんの脚本演出技巧が光るヤングネタもの新感線かな?と非常に雑に感じてしまうのも事実である。


そんな濃厚キャラ揃いの成長物語が神事になるのは、昇龍が成長の先に掴んだもの・掴もうとしているものが主演である原嘉孝に重なって、リンクして、彼という役者を祝福する物語になるからだ。
私自身はジャニオタではないけど、常に周りにジャニオタがいてJフレから関西Jrまで情報の洪水に曝され続けるオタク人生を現在進行形で歩んでいる。
演劇の神様が原担になったきっかけであろうメタルマクベスdisc2を現地で観て、推しである能條さんと共演したトムディハ*3までの短時間で豆苗か?????というくらい成長しまくっているのも知ってしまっている。
だからそもそも彼という役者にとてつもなく好意的な目線であるということを差し引いても、舞台の神様に選ばれた原嘉孝は美しかった。
相撲は五穀豊穣を願う神事だ、という話が作中でも触れられるのだが、神様に捧げられるための相撲を取る主人公として様々な経緯を経て0番に立っている原嘉孝は、この舞台に、この作品に、昇龍という役で立つためにある人だとさえ思えた。


原嘉孝くんにさしたる思い入れはないんだよね、という人も当然いると思うし、そもそもこの作品は本来彼の物語ではなかったので、上に書いた神事は完全に今回の事態における副産物だ。両国花錦闘士が本来持ち合わせている神事の意味は、この公演そのものが『相撲』と『演劇』を舞台という土俵の上で相対させる神事ということだ。

相撲コメディを原作とした両国花錦闘士において、取組が1から描かれるのはたった2シーンである。
1度目は緊張感に包まれ、物語を楽しむ以前にこの作品が無事幕を開けられることへ傾きがちだった会場中の意識が、2度目にはすっかり目の前の取組に夢中になり、固唾を飲んで勝負の行方を見守る姿勢に変わっている。

あの勢いで始まった物語に没入して、会場中がカーテンコールなんか関係なくめいっぱい拍手を送って、興奮しすぎて勢いよく立ち上がってスタオベしようとしたら術後1ヶ月経ってる腹の傷が開きそうになって、きらきら輝く板の上の光景に役者自身のことを重ねて泣きながら思うのだ。

ああ、ここは両国・国技館なのだと。

この感情ジェットコースター展開がトンチキじゃなくてなんだというのか。トンチキであり神事である、が両立されているのが両国花錦闘士という物語であり舞台作品なのである。





……もう冒頭の話大体回収したし、チケット案内していい?よくない?裸祭りが残ってるって?
相撲ってまわし姿でやるものだし、そりゃ裸祭りでしょうよと言われたらその通りなんだけど、これを視覚情報として受け取ると凄まじいものがある。前述の通り男性陣は大体みんな1回はまわし姿になっているが、まぁこれはあらすじやポスターから想像することができる。だが、その力士たちがラインダンスしたりヒップホップダンス披露したり宗教画再現したりしてるのは想像できないでしょうが。老いも若きもまわし姿でレーザービームみたいな照明受けながらJ-POP歌い踊ってるんだぞ。

原・大鶴・大原・りょうの4人以外は最低2役、最高だと……何役だ?とにかく1場おきに別の役をやっているような状態で、ただでさえこの4人だけでもまわしだったり浴衣だったりエナメルスーツだったりと情報量が多いのに、ちょいちょいそういう予想だにしない裸の祭り事を挟まれたら、そりゃあ次は視覚情報で処理落ちするわ馬鹿!!!!!!!!!!
私だって役者としては原嘉孝を猛烈に応援してるけど、物語としては大鶴佐助くん演じる雪ちゃんにめろめろだし!!!!!!あのぺらぺらタオルみたいな横断幕持って「雪ちゃ~~~~~ん💕💕」ってするし!!!!!!!!!!!上手前方席ください!!!!!!!!!!!





TICKET INFO |両国花錦闘士(りょうごくおしゃれりきし)公式 | 舞台

東京公演は明治座の席とりくん、ローチケ、東宝ナビザーブどこでもまだギリ買えます。当日引換券もある。初日終わって即千穐楽のチケット買ったのに、なぜか私もまだ見てるよ。
こんな状況なので楽観視はできないけれど、年明け以降も大阪・福岡公演と続いていく両国花錦闘士をぜひ劇場で体感してほしい。

このブログは結局間に合わなかったんだけど、東京公演はライビュがあったので映像作品になる可能性もあったりなかったりかなーとは思います。
ただ、このご時世下で舞台作品の配信が増えてきて個人的に痛感しているのは、やっぱり面白いと思った舞台作品ほど「この上映時間中にスマホやパソコン、テレビに齧りついてられる自信は皆無だな」と思ってしまうということ。劇場なり、ライビュなり、座席に縛り付けられてありとあらゆる情報をシャットアウトしてないとこんなに集中力が持たない。

劇場で物語に没入したな~と感じることはあっても、集中して観てます!と意識することはあまりないけど、意識することがないのは幸せで特殊な空間なんだと思う。両国花錦闘士も、私にとってはそういう作品だ。




marshmallow-qa.com

*1:*今年は忠臣蔵討入・る祭、通称:忠る! chu-ru.jp

*2:*毎年末に明治座で祭りシリーズを上演している株式会社る・ひまわり le-himawari.co.jp

*3:*あ!こんなところにダイジェスト映像が!まったく種類の違う原くんの演技が見られる上に、芸達者な女優としてリンダを好演している能條愛未さんも見られるぞ! youtu.beyoutu.be